仙台地方裁判所 平成4年(行ウ)11号 判決
原告
大久正己
右訴訟代理人弁護士
松浦正明
被告
小野光彦
同
中畑敦
同
斎藤満
右三名訴訟代理人弁護士
蔵持和郎
主文
一 被告らは、宮城県岩沼市に対し、連帯して八五万六七一二円及びこれに対する平成四年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 当事者
原告は、宮城県岩沼市の住民である。
被告小野光彦は、平成二年六月から現在まで宮城県岩沼市長の地位にあり、被告中畑敦は、同年七月から現在まで同市助役の地位にあり、被告斎藤満は、平成元年八月から現在まで同市収入役の地位にある。
2 本件公金の支出
(一) 岩沼市は、平成四年五月二九日、三〇日の両日、宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉(以下、「遠刈田温泉」という。)本町三番地所在の「旅館三治郎」において、岩沼市内の町内会長・副会長を招いて、「平成四年度布政懇談会」(以下、「本件市政懇談会」という。)を実施した。
本件市政懇談会の出席者は、岩沼市内の町内会長・副会長合わせで五二名と、岩沼市側から市三役である被告ら三名及び市職員一三名の合計六八名であった。
(二) 本件市政懇談会に要した費用は、総額で一〇一万二七一二円であり、その細目は次のとおりである。
(1) 宿泊費(日帰りの者の費用も含む) 六九万七三一〇円
町内会長・副会長五二名(宿泊者五一名、日帰り者一名)と被告ら及び市職員一三名(宿泊者一六名)の合計六八名分の宿泊費とその消費税である。
(2) 懇談会経費 二万一〇一二円
会議時の飲み物代とその消費税である。
(3) 懇親会経費 二五万四三四〇円
懇親会時の飲み物代等とその消費税である。
(4) その他経費 四万〇〇五〇円
入湯税(一万〇〇五〇円)と車燃料代(三万円)である。
(三) 右費用総額のうち、岩沼市の公金から支出した金額は、次のとおり合計八五万六七一二円である。
(1) 報償費として五四万〇一六〇円
(2) 需要費として一〇万一三五二円
(3) 旅費等として二一万五二〇〇円
3 本件公金支出の違法性
(一) 本件公金支出全体の違法性
(1) 岩沼市では、以前から各町内会長の参集を求めて市政懇談会を開いていたが、これらの市政懇談会はいずれも、市庁舎内会議室において日中実施される程度のものであった。
(2) しかし、本件市政懇談会は、岩沼市から約三〇キロメートル離れた遠刈田温泉において一泊二日の日程で実施されたものであり、その実質は、町内会長らを温泉地に招待し、被告らをはじめとする市職員が出席して、酌婦をはべらせる等して宴会を催すことに主たる目的が存したのであって、この目的に相応するように、出席者一人当たりの費用も一万五〇〇〇円に近い高級なものであった。
(3) 本件市政懇談会は、その目的、場所、日時、態様、金額の各点からみて、町内会長らの地域住民への奉仕、尽力等に対して行う儀礼としては、その範囲を著しく超えたものであることは明らかであり、これは、被告ら市職員らが町内会長らとともに市政懇談会の名目の下に行った公費による遊興といわざるを得ない。
したがって、本件公金の支出は違法である。
(二) 報償費からの支出の違法性
(1) 報償費は、役務の提供等に対する純粋な謝礼(例えば、講演会・講習会・研究会等の講師に対する謝礼金、人命救助者に対する謝礼金等)や施設の利用等によって受けた利益に対する代償として支出されるものである。
(2) しかし、本件市政懇談会に対する報償費からの支出は、役務の提供や施設の利用等によって受けた利益に対する代償としての支出ではなく、町内会長らの旅館宿泊代及び入湯税として支出されたものであって、報償費が本来予定していない使途への支出である。
本件における報償費からの五四万〇一六〇円の支出は違法である。
4 被告らの責任
被告小野は、岩沼市長として、本件公金支出全体が、あるいは報償費の支出が右のとおり違法であることを知りながら又は重大な過失によりこれを知らずに、右公金の支出命令を発し、被告斎藤は、同市収入役として、右違法性を知り又は重大な過失によりこれを知らずに、右命令に従って右公金を支出し、被告中畑は、同市助役として、被告齋藤の違法な支出に対する監督を怠り、よって被告らは共同して岩沼市に対し、公金支出額八五万六七一二円の損害又は報償費支出額五四万〇一六〇円の損害を被らせたものである。
5 監査請求
原告は、平成四年六月八日、地方自治法二四二条一項に基づき、岩沼市監査委員に対し監査請求をしたところ、同監査委員は、同年八月三日、原告に対し特別の措置を採る必要がない旨通知した。
6 よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、岩沼市に代位して、被告らに対し、連帯して本件公金支出額八五万六七一二円の損害金及びこれに対する訴訟送達の日の翌日である平成四年九月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を岩沼市に対して支払うことを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 1項は認める。
2 2項(一)、(二)は認める。
3 2項(三)の(1)、(2)は認める。
4 2項(三)の(3)は否認する。
原告の主張する旅費は、市職員の出張に伴う出張手当として支出された、市職員に対する給付であって、本件市政懇談会に対する支出ではない。
5 3項(一)の(1)は認める。
6 3項(一)の(2)、(3)は否認する。
7 3項(二)は否認する。
8 4項は争う。
9 5項は認める。
三 被告らの主張
1 地域住民の声を市政に反映させるためには、市民から広く市政全般にわたって意見、要望を聴く公聴活動が欠かせない。
市政懇談会開催の目的は、地域住民の行政に対する意見、要望を市内各地域を代表する町内会長から聴いて、市の事業や施策に生かしていくことにあり、昭和五五年度から継続して行われてきている。
平成四年度の本件市政懇談会は、十分な時間と場所を確保して議論を行い、その内容をより一層充実させるため宿泊を伴って開催されたものであり、市としては、広報広聴活動の一環として重要な施策と位置づけていた。
本件市政懇談会に先立ち、町内会長から事前に市政運営に対する要望書が提出され(二二七項目、但し重複あり)、これに対して市は逐一回答書を作成し、当日配付している。また、市内七一町内会中、会長出席は四三人、副会長出席は九人であり、合計五二町内会の代表者が出席しており、出席率は七三パーセントであって、市政懇談会として、実効性のある有意義な会になった。また、市側からは、市長を始め各部局の責任者ら一六名が出席しているが、町内会長からの多数の要望事項に対し、的確かつ詳細に説明を行い、会議を円滑に運営するためにも、これら市職員の出席者は必要であった。
そして、当日の懇談会は、午後二時三〇分から五時までの予定で行われたが、市政に関する多岐にわたる内容の要望、議論が続き、終わったのは、午後五時半であって、その後は、午後六時三〇分から開催の、夕食をとりながらの懇親会に引き継がれ、意見交換が行われた。
以上のとおり、本件市政懇談会は、市の広報広聴活動の一環として社会通念上許容される範囲内で行われたものであり、そのために必要な公金の支出も違法ではない。
2 本件市政懇談会においては、自営、会社員その他の職業や義務を持ちながら地区の代表としてそれを休んだり又は義務を犠牲にして参加した町内会長・副会長から、種々の意見、要望が出され、これにより市は市政に地域住民の意思を反映させるための資料を得たという点において、参加者から役務の提供を受けたものである。町内会長・副会長に対する宿泊費等の報償費からの支出は、右役務の提供により市が受けた利益に対する対価であるから違法でない。
第三 当裁判所の判断
一 請求の原因1項、2項(一)、(二)及び2項(三)の(1)、(2)の各事実は当事者間に争いがない。
二 請求の原因2項(三)の(3)につき判断する。
乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、岩沼市から、本件布政懇談会の岩沼市側の出席者に対して、公務旅行に伴う出張手当として旅費の名目で、市長に対し一万九三〇〇円、助役、収入役及び教育長に対し各一万七〇〇〇円、その他の一般職員一二名に対し各一万四二〇〇円、総計二四万〇七〇〇円が支給されたこと、各出席者は、支給を受けた右旅費の中から、本件市政懇談会の費用としてそれぞれ一万三四五〇円(内訳・宿泊費及び入湯税負担金一万〇四五〇円、懇親会等負担金三〇〇〇円)を負担・支出したこと、その総額が二一万五二〇〇円であることが認められる。
被告らは、市職員の右懇談会費用二一万五二〇〇円は、市職員が個人として負担・支出したものであり、公金の支出ではない旨主張するのであるが、右認定のとおり、市職員は本件市政懇談会への出席のために支給を受けた旅費の中から右懇談会費用二一万五二〇〇円を支出したのであるから、右懇談会費用が本件市政懇談会の費用として岩沼市の公金から支出されたものであることは明らかであるといわなければならない。
三 請求の原因3項(一)(本件公金支出全体の違法性)について
1 当事者間に争いのない事実、甲第一、二号証、第三号証の一ないし一〇、第七ないし第九号証、第一二号証、乙第一号証、第二ないし第九号証、証人三浦一朗、原告本人の各供述及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 岩沼市の町内会は、主に、会員相互の親睦と健康及び福祉の増進を図り、生活の向上改善に資することを目的として、各行政区を基本的単位とする居住者をもって組織された、純粋に私的な親睦団体である。町内会長、副会長は、居住者から選任された私的な役割であり、町内会の活動は無報酬で行われている。
岩沼市が、直接、町内会に対し、市行政への協力等を依頼することはない。
(二) 岩沼市は、各地区ごとに行政区を設け、各行政区に区長を置いている。
区長の設置は、岩沼市区長設置規則に基づくものであり、市長が任命し、市の行政に関する通知、連絡調査等各行政区における市行政の推進に当たることとされている。
岩沼市の広報・広聴活動や諸文書の配付等の市行政への協力は、右規則に基づいた区長が行い、これに対しては、報酬あるいは謝金としての予算措置が取られている。
(三) 岩沼市は、昭和五五年から、広報・広聴活動の一つとして、地域住民の意見・要望を広く聴き、市政の運営に反映させていくため、年一、二回、町内会長を招いての市政懇談会を開催してきた。本件市政懇談会の前年までは、市役所庁舎内の会議室において午前の半日程度の日程で行われるものであった。
岩沼市は、区長との懇談会を年一回行っているが、それも、日中、市役所庁舎内の会議室においてであり、本件市政懇談会が行われた平成四年も同様であった。
岩沼市の周辺の地方自治体(宮城県名取市、同塩釜市、同多賀城市、同白石布、同角田市、同柴田町)において、本件市政懇談会のように、市職員が町内会長と宿泊施設(温泉旅館)で懇談・懇親会を行い、その費用の大半を公金で賄うというようなことは行なわれたことがない。
(四) 平成三年度の市政懇談会において、一部の町内会長から、「じっくり時間をかけて懇談を行ってほしい」、「懇親を深める場も設けてほしい」という要望が出された。この要望に応える形で、本件市政懇談会が計画された。
本件市政懇談会は、平成四年五月二九日金曜日午後一時から翌同月三〇日土曜日午前一〇時三〇分までの予定で、宮城蔵王温泉地の一つであり、岩沼市から約三〇キロメートルの距離にある遠刈田温泉の旅館「三治郎」において行われた。
開催の趣旨として、被告小野から各町内会長宛の出席依頼書には、「町内会、自治会などの代表者と市政に関する懇談を行い、市政への理解・関心を高めて頂き、また、市政の向上を図っていくため広報広聴活動の一環として懇談会を行う」旨掲げられていた。
本件市政懇談会には、岩沼市内の七一町内会の内から、会長が四三名、副会長が九名の合計五二名が出席した。
岩沼市からは、被告ら三名の他、教育長、総務部長、産業部長、建設部長、民生部長等の職員が出席した。
(五) 本件市政懇談会を行うに当たって、岩沼市は、あらかじめ各町内会長から、「ア 建設(土木・住宅・都市計画・下水道)部門 イ 産業(農政・商工観光)部門 ウ 民生(生活環境・福祉・保健・窓ロサービス)部門 エ 総務(企画・税務・行財政・広報)部門 オ 教育(学校・社会教育・文化・スポーツ)行政 カ その他」についての「市政運営についての意見・要望」のアンケートを取り、各町内会長から出された意見・要望に対し個別に対応策等を記載した回答書を用意し、配付した。その回答は、意見・要望に答えたかなり懇切なものであった。
平成四年五月二九日は、午後一時から午後二時までを岩沼市役所から旅館「三治郎」への移動の時間に充て、午後二時三〇分から市政懇談会を開始し、まず市職員が予算の概要、各部の重点施策等の説明をした後、「環境の美化」「高齢者福祉」等をテーマに、午後五時三〇分まで、懇談を行った。その懇談の内容は、多くが右アンケートの意見・要望事項とは直接の関連性を有しないものであり、各町内会から岩沼市に対する、ごみ処理問題や放置自転車等についての、極めて具体的な事項についての要望・相談というようなものがほとんどであった。
右懇談会を終えた後、同日午後六時三〇分から午後八時三〇分まで、出席者が浴衣に着替えての懇親会が行われた。右懇親会には酒食が提供され、カラオケ設備が用意され、五名の酌婦がついた。
(六) 本件市政懇談会に要した費用の総額は、次のとおり一〇一万二七一二円であった。
(1) 懇談会に要した費用、コーヒー代二万一〇一二円。
(2) 懇親会に要した費用、合計二五万四三四〇円(消費税込み。なお、サービスとして二〇三円が引かれている。)。その内訳は次のとおり。
ビール代七万九五〇〇円(七五〇円×一〇六本)、
酒代四万三一六〇円(五二〇円×八三本)、
ウィスキー代四万円(八〇〇〇円×五本)、
ウーロン茶代七八三〇円(二九〇円×二七本)、
ジュース代三一九〇円(二九〇円×一一本)、
おにぎり代五二五〇円(一五〇円×三五個)、
カラオケ代一万二二〇〇円、
酌婦料五万六〇〇〇円(二八〇〇円×五人×四単位、三〇分を一単位として二時間)。
(3) 宿泊費六九万七三一〇円。
(4) 入湯税・車燃料代四万〇〇五〇円。
右総費用一〇一万二七一二円のうち、懇親会費用として町内会長らは各自三〇〇〇円宛、総額一五万六〇〇〇円(三〇〇〇円×五二名)を自己負担した。岩沼市からの公金支出額は、八五万六七一二円であった。
参加者一人当たりの費用は一万四九〇〇円弱であった(町内会長らはその内三〇〇〇円を自己負担した。)
右のとおり認められる。
2 以下、右認定事実に基づき判断する。
(一) 本件市政懇談会は、岩沼市の、広報・広聴活動の一つとして、地域住民の意見・要望を広く聴き、市政の運営に反映させていく目的で開催されたものであり、懇談会の内容は一応、その趣旨に沿ったものであったということができる。
したがって、一見すれば、それは岩沼市の職務と関連性を有する会合であったというようにも見える。
しかしながら、岩沼市においては、規則に基づき、各地区ごとに行政区を設け、各行政区に区長を置き、岩沼市の広報・広聴活動や諸文書の配付等の市行政への協力は、右区長が行っているのである。岩沼市としては、市の広報・広聴活動の一つとして、地域住民の意見・要望を広く聴き、市政の運営に反映させていくためには、まず第一に、法的根拠を有する区長との懇談・懇親による意思疎通を図るべきものと判断される。
他方、町内会は、あくまでも地域住民の、純粋に私的な親睦団体であり、町内会長、副会長は、居住者から選任された私的な役職であり、岩沼市が、直接、町内会に対し、市行政への協力等を依頼することはないのである。岩沼市の行政に関する限り、町内会長、副会長は、他の市民に何ら変わるところはない。岩沼市が、一般市民の中からことさらに町内会長、副会長とのみ懇談・懇親を行うべき法的な根拠はないのである。
そうすると、本件市政懇談会が、岩沼市の職務と関連性を有する会合であると断言することができるか、疑念なしとしない。
(二) 本件市政懇談会を行うに当たって、岩沼市は、あらかじめ各町内会長から、「市政運営についての意見・要望」のアンケートを取り、その個々に対応策等を回答した。
回答書である乙第二、三号証によれば、その回答は、各町内会の意見・要望に答えたかなり懇切・丁寧なものであることが認められる。
本件市政懇談会における懇談内容は、テーマが、「環境の美化」と「高齢者福祉」に限定されたこともあって、多くが右アンケートの意見・要望事項とは直接の関連性を有しないものであり、各町内会に固有の極めて具体的な事項についての要望・相談というようなものがほとんどであった。
懇談会の会議録である乙第六号証によれば、その懇談内容は、よくいえば広範多岐にわたったものであったが(乙第六号証)、地域に密着した要望的性格のものが多く、出席者全員間である論点につき議論をしたり意見の交換をしたりするようなものではなく、やや散漫な印象をも受けるものであった。
総じて、本件市政懇談会における懇談が、はたして、事前のアンケートによる意見・要望とこれに対する回答以上の、実施の必要性、有用性が認められるかについては、疑念なしとしない。
(三) 本件市政懇談会は、懇談会とその終了後の懇親会が不可分のものであった。
そこで、本件市政懇談会は、宮城蔵王温泉地の一つであり、岩沼市から約三〇キロメートルの距離にある遠刈田温泉の旅館「三治郎」において行われた。
懇談会後の懇親会には、酒食が提供され、カラオケ設備が用意され、五名の酌婦がついた。参加者六八名の一人当たりの費用は一万四九〇〇円弱であった(町内会長らはその内三〇〇〇円を自己負担した。)。総費用は一〇一万二七一二円であり、岩沼市は、その内八五万六七一二円を公金支出した。
右事実によれば、右懇親会は宴会とも評すべきものであろう。
本件市政懇談会は、一部の町内会長から出された、「じっくり時間をかけて懇談を行ってほしい」、「懇親を深める場も設けてほしい」という要望に応える形で計画された。
しかし、右懇親会は本件市政懇談会の一部である。市が市民との行政上の意志疎通を図るのに、右のような場所で、右のような内容の酒食をともにする必要性はいささかも見出し難い。他方公共団体が、対外的接触の過程において、社会通念上相当と認められる範囲の儀礼としての接待をすることが許される場合があることとは質的に異なるのである。
本件市政懇談会の根拠が薄弱なことは、その費用の支出の根拠が薄弱で、過半が、本来は役務の提供等に対する純粋な謝礼(例えば、講演会・講習会・研究会等の講師に対する謝礼金、人命救助者に対する謝礼金等)又はいわゆる報償的意味の強い経費であるといわれる報償金から支出されていることからも裏付けられるところである。
(四) 以上のとおりであって、本件市政懇談会の、市の職務との関連性、その必要性・有用性及びその場所・内容・費用額等を総合考慮すれば、本件市政懇談会は、岩沼市の広報・広聴活動としての裁量の範囲を逸脱したものであり、岩沼市の本件市政懇談会に対する公金の支出は違法であるといわざるを得ない。
四 請求の原因4項(被告らの責任)について
(一) 弁論の全趣旨によれば、被告小野は、岩沼市長として、本件市政懇談会に対する公金の支出命令を発したことが認められる。
被告小野は、岩沼市長として、市の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負い(地方自治法一三八条の二)、違法な支出をしないようにすべき注意義務があるのにこれを怠り、本件市政懇談会に対する公金の支出命令を発したものであるから、この点において、著しく職務上要求される注意義務に違反したものといわなければならない。
被告斎藤は、岩沼市収入役として、市長から支出の命令を受けた場合において、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないことを確認したうえでなければ、支出をすることができない(同法二三二条の四第二項)にもかかわらず、右公金を支出したのであるから、著しく職務上要求される注意義務に違反したものといわなければならない。
被告中畑は、岩沼市助役として、市長を補佐し、収入役の担任する事務を監督する義務がある(同法一六七条)にもかかわらず、被告小野、被告斎藤の本件公金の支出について、その職責を果たさなかったのであるから、著しく職務上要求される注意義務に違反したものといわなければならない。
なお、被告斎藤、被告中畑は、被告小野とともに、本件市政懇談会に出席しており、その法的性格を事前に直接知る立場にあったものである。
(二) 前記三認定のとおり、本件市政懇談会のための公金支出は、全体として違法となるから、岩沼市は公金支出額八五万六七一二円の損害を被ったというべきである。
(三) そうすると、被告らは、右公金の支出により岩沼市の被った右損害を、連帯して賠償すべき義務があるといわなければならない。
五 請求の原因5項(監査請求)は当事者間に争いがない。
六 被告らに対する訴状送達の日の翌日が、いずれも平成四年九月一七日であることは、記録上明らかである。
七 以上によれば、原告の請求の原因6項記載の本訴請求は理由がある。なお、仮執行宣言は相当でない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官坂本慶一 裁判官長沢幸男 裁判官佐藤重憲)